相続放棄を考えているなら遺品に手をつける前に
親や親族が亡くなり、借金があるかもしれない。持ち家の状態が分からない。そういうときに「相続放棄」という選択肢が出てきます。そして同じタイミングで、家の片付けをどうするかという話も出てきます。
この2つは、順番を間違えると取り返しがつきません。片付けを先に進めたために、相続放棄ができなくなることがあるからです。
- 相続放棄には「知った時から3か月」という期限がある
- 相続財産を処分すると、単純承認したとみなされる場合がある(民法921条1号)
- 判断がつくまでは、家の物を動かさないのが安全
- 2023年4月から、放棄した人の義務の範囲が法律で整理された
まず、期限の話から
民法915条1項は、相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」承認するか放棄するかを決めなければならない、と定めています。この3か月は、亡くなった日からではなく、自分が相続人になったと知った日から数えます。
調査が間に合わないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てる方法があります。裁判所のウェブサイトに手続きの案内が出ています。
参考:裁判所:相続の放棄の申述/裁判所:相続の承認又は放棄の期間の伸長
片付けが「処分」にあたると、放棄できなくなることがあります
民法921条は、次の場合に単純承認をしたものとみなす、と定めています。条文そのものを引用します。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
「処分」が具体的にどこからかは、条文だけでは決まりません。ただ、家財を売る、捨てる、形見として持ち帰るといった行為が「処分」と評価される可能性は否定できません。迷っている段階で、家の物を動かさないでください。
ただし、条文は但し書きで「保存行為」を除いています。雨漏りを止める、鍵をかける、電気を止めるといった、財産を減らさないための行為は別扱いです。
参考:e-Gov法令検索:民法
判断がつくまでにできること
- 写真を撮る。部屋の状態、通帳や書類の場所、貴重品の有無を記録として残す
- 郵便物を確認する。督促状、カード明細、借入の案内は、判断材料になります。開封してよいかを含めて、早めに専門家に相談してください
- 鍵を管理する。誰が持っているかを把握し、勝手に人が出入りしない状態にする
- 賃貸なら、家主に事情を伝える。放棄を検討中であることを含めて、先に共有しておく
- 見積もりは取ってよい。依頼はせず、金額を知るだけなら処分にあたりません
放棄するかどうかが決まってから、片付けを始めても遅くありません。3か月を超えそうなら伸長を申し立てる、という順番です。
2023年4月に変わった点
相続放棄をした人の義務について、民法940条が改正されました。現行の条文では、義務を負うのは「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限られ、内容は「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存」することです。相続人や相続財産清算人に引き渡すまでの間の義務です。
法制審議会の資料では、この義務は「財産の滅失又は損傷をしないという意味での保存義務」であり、現状を維持するための積極的な行為までは求められないと説明されています。「相続放棄をしても家の管理責任がずっと残る」という古い説明は、現行法では正確ではありません。
参考:法テラス:相続放棄した場合の管理義務/法務省:法制審議会部会資料(相続の放棄をした者の義務)
片付けを頼む前に、確認しておくこと
業者に見積もりを依頼する段階で、次のことを伝えておくと話が早くなります。
- 相続放棄を検討中であること
- 作業を開始できる時期が未定であること
- 見積もりだけ先に欲しいこと
この事情を説明したときに、「大丈夫ですよ、先に片付けましょう」と勧めてくる業者には注意してください。判断の責任を負うのは依頼者本人です。
専門家に相談する場合
相続放棄の可否は個別の事情で変わります。弁護士や司法書士、または法テラスにご相談ください。この記事は制度の説明であり、個別の判断を示すものではありません。