兄弟で意見が割れて片付けが進まないとき
実家の片付けを始めたいのに、兄弟の一人が「まだ早い」と言う。別の一人は「全部捨てていい」と言う。連絡がつかない相続人がいる。——遺品整理が止まる理由の多くは、物ではなく人です。
感情の問題に見えますが、法律上の建て付けを知っておくと、話の進め方が変わります。
- 相続人が複数いる場合、遺産は全員の共有(民法898条)
- 遺産分割は相続人全員が参加して決める手続
- 勝手に処分しても、分割の計算上は「あったもの」として扱える規定がある(民法906条の2)
- 話がまとまらない場合、家庭裁判所の調停という方法がある
片付けが止まるのは、法律上は当然のことです
民法898条1項は、こう定めています。
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
つまり、家の中の物は「誰か一人の物」ではなく、相続人全員の共有です。法務省も、遺産分割は「法律で決められた相続人が全員参加して、相続財産の分け方を決定する手続」と説明しています。
だから、一人が勝手に進めると揉めます。逆に言えば、揉めているのは法律の想定どおりで、誰かが悪いわけではありません。
参考:法務省:遺産分割について
「先に捨ててしまえばいい」は通りません
民法906条の2は、遺産分割の前に財産が処分された場合の扱いを定めています。相続人の一人が勝手に処分した場合、その人の同意を得なくても、処分された財産が分割時になお存在するものとみなして計算できるという規定です。
実務的な意味はこうです。勝手に売った人がいても、その分は取り分の計算に含められる。つまり、先に処分しても得にはなりません。
進め方として、現実的な順番
- 相続人を確定する。戸籍をたどって、誰が相続人かをはっきりさせます。ここが曖昧なまま進めると、後で全部やり直しになります
- 財産の全体像を出す。不動産、預貯金、保険、負債。片付けの前に、これが分からないと判断できません
- 期限のあるものを先に確認する。相続放棄は3か月、相続登記は3年、空き家の譲渡所得の特例は3年。期限が意思決定を早めてくれます
- 「捨てる」ではなく「分ける」から始める。残す物、判断が必要な物、明らかに不要な物の3つに分けるだけなら、全員の合意が取りやすいです
- 写真で共有する。遠方の相続人には、現地に来てもらう前に写真を送る。これだけで反対が減ることがあります
- 価値が分からない物は、先に価値を知る。金額が分かると、感情論が減ります
それでもまとまらないとき
家庭裁判所の遺産分割調停という手続があります。当事者双方から事情を聴き、必要な資料を確認したうえで、解決案が示されます。
- 申立先:相手方のいずれかの住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所
- 費用:被相続人1人につき収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手
- 調停が成立しない場合は、自動的に審判手続に移行します
「裁判所」と聞くと構えますが、申立ての費用自体は高額ではありません。当事者だけで話すと感情が先に立つ場合、第三者が入るほうが早く終わることもあります。
参考:裁判所:遺産分割調停
片付け業者を呼ぶ前に決めておくこと
- 誰が窓口になるか(複数人が別々に業者とやり取りすると混乱します)
- 当日、誰が立ち会うか
- 残す物のリストを、全員で共有したか
- 買取が発生した場合、その金額を誰が受け取り、どう分けるか
- 費用を誰が立て替え、どう精算するか
特に最後の2つは、先に決めておかないと後で揉めます。金額の大小ではなく、決めていなかったことが原因になります。
この記事は制度の説明です。個別の判断は弁護士・司法書士にご相談ください。